信太山丘陵里山自然公園で、美しい蛾「シンジュキノカワガ」が確認されました。この蛾は以前は「珍しい偶産種」として図鑑の表紙を飾るほど貴重な存在でしたが、近年は各地で見られるようになってきています。今回は、この不思議な蛾についてご紹介します。
科名: コブガ科シンジュガ亜科
学名: Eligma narcissus
大きさ: 開張6.7~7.7cm(やや大型の蛾)

シンジュキノカワガの最大の特徴は、その美しい翅の模様です。
翅を閉じているときは地味ですが、翅を開くと突然、宝石のように美しい姿を見せてくれます。
シンジュキノカワガは、もともと中国大陸原産の蛾です。夏から秋にかけて、低気圧や偏西風に乗って日本へやってくる「飛来種」とされてきました。以前は飛来しても日本の寒い冬を越せずに死滅すると考えられていましたが、近年の温暖化の影響で越冬する個体が確認され、日本に定着しつつある可能性が指摘されています。
幼虫は黄色と黒の縞模様で、長い白い毛が生えています。いかにも毒々しい見た目ですが、実際には無毒で、触っても害はありません。



幼虫の食樹はニワウルシ(別名:シンジュ=神樹)に限られています。ニワウルシもシンジュキノカワガと同じく中国原産の外来樹木で、明治時代に別種の蛾「シンジュサン」を養殖して絹糸をとるために、餌の飼い葉にする目的で日本に導入されました。街路樹や公園に植えられていることが多く、そこでシンジュキノカワガも繁殖しています。
大発生すると、ニワウルシの葉を食べ尽くしてしまうほどの食欲を見せることもあります。
シンジュキノカワガの蛹には、驚くべき特技があります。
終齢幼虫は、ニワウルシの樹皮を削り取り、自ら吐いた糸と混ぜて樹皮そっくりの繭を作ります。この繭に触れると、中の蛹が激しく動いて大きな音を発します。


この行動は、近縁種のナンキンキノカワガでもよく知られています。ナンキンキノカワガの蛹は、繭の内側のギザギザ部分に尾部をこすりつけることで機械音のような大きな音を出し、まるで楽器のギロのようです。
蛹が音を出す目的については、諸説あるもののまだ立証された定説がありません。
以下は今考えられている仮説です。
蛹は動くことができないため、音だけで天敵を遠ざける必要があります。この不思議な行動は、昆虫の生存戦略の奥深さを感じさせてくれます。
以前は非常に珍しく、昆虫愛好家の憧れの的だったシンジュキノカワガですが、近年は関東から関西まで各地で発生が報告されています。
2023年には静岡県の伊豆地方で大発生が確認され、2024~2025年には兵庫県や神奈川県、東京都などでも相次いで発見されています。これは温暖化の影響で越冬できる地域が広がっている可能性を示唆しています。
もし公園でシンジュキノカワガを見つけたら:
シンジュキノカワガは、美しい姿、不思議な生態、そして環境変化による分布拡大という、さまざまな興味深い要素を持つ蛾です。
かつては「珍虫」として憧れの存在でしたが、今では身近な場所で観察できるようになりました。これは昆虫愛好家にとっては少し複雑な気持ちかもしれませんが、一般の方々にとっては美しい昆虫に出会える機会が増えたということでもあります。
信太山丘陵里山自然公園で見かけた際は、ぜひじっくり観察してみてください。自然の不思議さと美しさを感じられるはずです。
参考情報:
観察のポイント: