信太山丘陵里山自然公園は、大阪府和泉市に2024年8月に一般公開されたばかりの新しい自然公園です。都会のすぐ近くにありながら、絶滅危惧種を含む34種もの貴重な生き物が暮らす15.6ヘクタールの豊かな自然が守られています。入園は無料で、誰でも気軽に森や草原、湿地を歩きながら四季折々の美しい景色と生き物に出会えます。
和泉市の北部地域に広がる信太山丘陵一帯は、旧陸軍や自衛隊の演習場として開発を免れてきた結果、市街地の近くながら貴重な湿原や草地といった多様な自然環境が維持されてきました。この公園は、環境省が全国で500か所しか選ばない「重要里地里山」に選ばれた、国が認める自然の宝庫です。週末の散歩や家族でのピクニック、子どもの自然体験、健康づくりのウォーキングなど、さまざまな楽しみ方ができる、地域の憩いの場として期待されています。東側エリアも里山公園として整備を進めており、将来は、広大な里山公園としてお楽しみいただけます。
| 開園面積 | 約2.6ha(第 1 期開園区域) 全体計画面積約 15.6ha |
| 開 園 日 | 2024 年 8 月 1 日(第 1 期開園区域) |
| 種 別 | 都市公園(都市林) |
| 主要施設 | 管理棟、西の大草原、里山ふれあい広場、こもれび林、ツツジの丘、散策園路、草原迷路、駐車場(無料)、トイレ |
「市民の憩いの場」、「自然体験の場」、「環境学習の場」を三本柱とし、豊かな自然の中で「自然とふれあえる公園」の理念のもと、里山の草原や森をみんなで守り育てています。
-edited.jpg)
信太山丘陵里山自然公園の一番の魅力は、大阪府内では見ることが難しくなった広々とした草原と湿地が残っていることです。「西の大草原」と呼ばれるエリアでは、チガヤやススキが風に揺れる開放的な景色が広がり、まるで郊外の高原にいるような気分を味わえます。公園の約2割を占める草原と湿地は、大阪府内で最大規模の湿地群を含んでおり、府内でも貴重な場所となっています。



この公園がこれほど豊かな自然を保っているのには、実は特別な理由があります。かつてこの土地は軍や自衛隊の訓練場として使われていたため、開発から守られてきました。もっと大昔には、水底に沈んでいたため粘土が堆積し、湧水が溜まりやすい粘土層と、まるで河砂のような礫石とが混じった特有の地質が自然につくられました。人の手が入りすぎず、かといって完全に放置されることもなかったことで、独特の自然環境が育まれたのです。今では市民の願いによって自然公園として生まれ変わり、多くの人が訪れて楽しめる場所になりました。


市有地には、アカマツ-モチツツジ群集に代表される二次林が約8割を占める一方で、残りの約2割を草原が占めています。貴重な植物は大半が草原性・湿原性のもので、「貧栄養、弱酸性、かつ湿潤な土壌」という、植物の生存にとって条件の厳しい環境に適応した種が多く含まれます。
森の部分は、アカマツの林や常緑樹の森、コナラの雑木林など変化に富んでいて、「こもれび林」と名付けられた散策路ではアラカシの木漏れ日の中を気持ちよく歩けます。公園内には管理棟や広場、遊歩道が整備されていて、自然を身近に感じながら安心して過ごせる環境が整っています。
この公園の大きな見どころの一つが、ヤマトサンショウウオという珍しい両生類です。大阪府では絶滅の危機にある生き物として最も高いランク(絶滅危惧I類)に指定されており、春になると湿地で卵を産む姿を稀に観察できることがあります。サンショウウオは、枯れない湿地と豊かな森林が近くに隣接していなければ存続できない生き物なので、この公園の環境の良さを示す象徴的な存在です。






他にも、オオタカやフクロウという大型の猛禽類や、カヤネズミという草原に住む小さなネズミ、さまざまなバッタやトンボなど、平成22年の自然環境調査で「大阪府レッドリスト2014」に掲載されている貴重種(絶滅危惧種・準絶滅危惧種)の34種が確認されています。これは並大抵のことではなく、大阪府のレッドリストで「生物多様性ホットスポット」のAランクに認定されているほどです。普段の生活ではなかなか出会えない野生の生き物たちを、ここでは間近に感じることができます。
バードウォッチングや昆虫観察も楽しめて、特に夏から秋にかけてはバッタ捕りのイベントも開催されます。子どもたちが自然の中で生き物と触れ合いながら学べる、貴重な体験の場となっています。
信太山丘陵里山自然公園は、一年を通じて違った表情を見せてくれます。

しかしながら現在の信太山丘陵里山自然公園は、草原環境の多様性の低下、湿原環境の悪化、アカマツ林の松枯れ、照葉人工林の分布と拡大、外来生物の侵入などにより、貴重な動植物の生息が脅かされる状況となっています。湿地に生息する貴重種をはじめ、多くの動植物種は、人の手による周辺環境の維持管理がないと、瞬く間に乾燥した草原に取って代わられ、樹林の拡大に吞み込まれ、やがて枯れ果て失われてしまいます。
そこで信太山丘陵里山自然公園協議会は、「生物多様性豊かな信太山丘陵固有の里山的二次自然」を目指す自然環境の姿とし、次の3点を保全の方針としています。



信太山丘陵里山自然公園は、単なる散歩の場所以上の価値を持っています。環境省が全国で500か所だけ選定する「重要里地里山」の一つとして、国が認める生物多様性保全上重要な場所です。都市近郊でありながらこれほど豊かな自然が残っているのは極めて珍しく、大阪府内で生物多様性ホットスポットとも同時認定された里山となると、わずか6か所だけ(※)です。
※能勢町天王・山辺周辺、穂谷・尊延寺、竜王山・安威川上流域、堺・南部丘陵、和泉葛城山、信太山丘陵
「里山」とは、人が適度に手入れをすることで豊かな自然が保たれる、日本の伝統的な環境です。完全な原生林ではなく、人と自然が共生してきた場所。この公園はまさにその典型で、草刈りや森の管理といった人の手が入ることで、多様な生き物が暮らせる環境が維持されています。
かつて軍用地だったという歴史も、皮肉なことにこの自然を守る結果となりました。開発されず残った土地を、市民の声によって自然公園として活用する道を選んだことは、地域の誇りといえるでしょう。
今後も東側のエリアが整備され、最終的には15.6ヘクタール全体が公園として開放される予定です。地域の人々にとっての憩いの場、子どもたちの自然体験の場、環境教育の場という3つの役割を果たしながら、この貴重な自然は次世代に引き継がれていきます。